農林水産大臣賞受賞

長野県から来ました滝沢栄一と申します。

よろしくお願いします。

有機栽培は、農薬と化学肥料を使わないので、初期生育が遅れて一般的な栽培の収量に達することが困難です。

そこで、経費削減を行い競争力を向上させるため、"疎植栽培"が有効ではないかと考え、経費･収量･品質について詳しく調査を行いました。

調査区の設定は、慣行区は坪当たりの株数を70株としました。

比較区として栽植密度を下げた50株、37株としました。

この条件で田植えをしたところ、株間隔は最大で約2倍になりました。

株間隔の切り換えは田植機で行いました。

有機栽培資材として、「醗酵鶏糞、アミノシャープ等」を使用しました。

10a当たり窒素換算でえ8.3kgの肥料を投入しました。

試験ほ場は、約25aのほ場を3ヶ所使用しました。

植付後の根の活着をよくするためには、苗作りが重要です。

丈のそろった元気な苗で田植えに臨みます。

苗の積み込みには、時間と労力がかかりますので出来るだけ抑えたいと考えています。

10a当たりの苗使用量は、慣行区で20.4箱になりました。

70株の慣行区を100とした場合、37株区では最大35％の削減が可能でした。

7月、8月、9月に、生育調査を行いました。

日々の観察の中で葉の色が濃い事が気になり、カラースケールを用いて観察しました。

37株区では、葉の色が濃いため、各調査区とも37株区に合わせて追肥の量をへらしました。

その結果、収穫時には葉の色が落ち着いてきました。

育成調査のグラフは、縦軸を草丈、円柱の面積を茎数としています。

草丈は各調査区とも右側の9月まで伸びています。

茎数は37株区のみ9月になっても増加が顕著で、遅れて分げつが進んでいました。

刈取りは、収穫適期を逃すことなく進みました。

収量調査は茶色を精玄米重とし、緑色を選別機の網から落ちた網下としています。特A米地域のため1.9mmの大きめな網を使用します。

10a当たり全刈収量比較は、70株区では520.2kgとなり、俵換算で8.7俵収穫出来ました。

分げつの遅れが目立った37株区でしたが、9株も採れました。

品質の調査ですが、食味計による分析は、食味に影響のある代表的なタンパク、アミロース、食味値について団子の大きさとして比較しました。

50株区では、タンパク質の評価が高くなりました。
37株区ではタンパクと食味値の評価が低くなりました。

品質判定機による整粒具合で、未熟粒などの割合は、37株区で17.5％となっており、他の区と比較して品質が低くなりました。

しかし全ての調査区で良質粒は80％を超えており、1等米基準を十分満たしています。

10a当たりの育苗経費と収入を比較しました。
計算の基となる育苗の原価は、1箱当たり215.4円の経費がかかります。

70株区のほ場では、苗箱を20.4箱使用したため4,386円の経費がかかりました。

前年度JA出荷時の価格では玄米1俵当たり14,800円とすると、128,316円の収入になりました。

収入から育苗経費を引いた値は、37株区では慣行区に比べ、6,355円の増となりました。

この結果から37株区で最も収益性が高くなりました。

調査結果について、経費、収量、品質を調査区毎に優劣をつけました。

37株区では、苗の使用量や収量から判断してもっとも評価が高くなりました。

疎植栽培っは、苗の使用量が少ないため運搬時および移植時の労力を軽減することができました。

品質では、50株区が最も良い結果が得られました。

私は有機栽培で、品質の高い米作りにこだわりをもっているため、この区の品質の良さに注目しています。

1年目の調査結果から2年目の課題が明らかになってきました。

食味を向上させるために、基肥と追肥料の調査を行い残留窒素を減らします。

栽植密度の絞込みを行うため、1年目で品質が良かった50株を中心に的を絞り、60株から40株の間で調査を行います。

さらに、初期生育を確保するために、疎植栽培とは反しますが、1株当りの植付本数をを増やします。

2年目の耕種概要ですが、1年目の課題から食味を向上させるため、基肥の醗酵鶏糞と、アミノシャープの量を減らし、窒素は成分換算で25％減の6.25kgとしました。

肥料と農薬について、慣行栽培と比較しました。

有機栽培の基肥と鶏糞を含めた土壌改良の材料費は、慣行栽培と比較して約1.8倍のコスト増となりますが、農薬を使わないので1,581円のコストダウンになりました。

当地の恵まれた気候条件と栽培技術を組み合わせることで、低コストな有機栽培を実現しています。

苗使用量は、1年目の反省から、初期成育を確保するために植付本数をおおよそ2割程度増やしました。

その結果40株区では15.6箱となり、60株区と比較して41％の削減が可能でした。

生育調査で注目したいのは、8月調査以降で各調査区の茎数の増加がみられませんでした。

これは1年目と比べて遅れて進む分げつが抑えられていることが確認できます。

10a当たり全刈収量比較は、玄米収量が8.1俵～8.4俵となり、基肥を抑えたため収量は減少しましたが、各調査区において大きな差はみられませんでした。

食味計の分析では、タンパクや食味値の評価が向上して大きめな団子になりました。

1年目と比較して調査区間の差がほぼ無くなり、疎植栽培による影響は少なく、いずれの調査区でも評価が向上しました。

品質判定機による整粒具合は、今年は夏場に高温の日が続いたため、胴割れなどの割合が1年目より増加していますが1等米基準は満たしています。

10a当たりの育苗経費と収入を比較しました。

育苗経費は、2年目では植付本数を増やしたため昨年より増加していますが、収入に大きな差が出ていないため、育苗経費の差が収益性に影響してきます。

収支計算では、60株区を基準とした場合に40株区では6,805円の増となり、疎植にするほど収益が高くなることが改めて確認できました。

2年目の評価ですが、経費は、疎植による苗の使用量削減で40株区が最も良い結果が得られました。

収量は、8俵程度ですが各調査区に差はなく、評価は横ばいです。

品質は、1年目の反省を活かして、元肥を削減したため食味計で高スコアを出すことができどれも良い評価になりました。

2年間の調査から、最適な栽培方法は、窒素換算で6.25kgの施肥量、40株の栽植密度、10a当たり15.6箱の植付量でした。

坪当たりに換算すると7月調査時で801本の茎数を確保する必要があります。

この条件で60株の慣行区と比較して6,805円の利幅があるため、経営面積5haに置き換えると34,0250円の増益になり、我が家の経営に大きく寄与することが分りました。

東御市八重原の恵まれた環境に感謝しつつ、各地の水稲生産者と情報を共有し、地域の活性化に貢献すると共に、東御市農業の底力を全国へ向けて発信していきます。

これまでの農業の常識にとらわれず、栽培技術に磨きをかけ、創意工夫を積み重ねていくことで、10ha程度の中規模農家でも十分に経営が成り立つ米農家を目指して行きたいと考えています。

ご静聴ありがとうございました。